"消えたプリンセス"

革命前夜、都から避難していた皇帝一家は暴徒に襲われた。

この夜、この場所を生き延びたのは皇帝の末娘メロディ姫と、彼女を守った騎士だけだった。

重症を負い意識朦朧とする中でメロディ姫は愛する騎士エミリオの腕の中にいた。

  「姫しっかり!必ず私がお守りします!」

「あなたがいればなにも怖くない…」

そう言ったのを最後に全ては暗闇へと消えていった。 

 

あの革命前夜から数年が過ぎた―。 

 

都から離れた森の中でエミリオはひっそりと暮らしていた。

彼の傍らにはアンナと呼ばれる美しい娘がいた。

しかしアンナには過去の記憶がなく、両親が誰なのかも、何処で生れたのかも分からなかった。

そんなアンナが唯一信じられるのは、目覚めた時そばにいたエミリオだけ。

二人は森の奥で貧しいながらも幸せに暮らしていた。

そんなある日、薪拾いから戻ったエミリオをめかしこんだアンナが出迎えた。

「エミリオ!」

「どうしたんだ!そのドレス?」

「昼間行商人が来てね、あんまりきれいだったから。 どお、似合う?」

「あぁ、似合うけど…。塩を買う金が吹っ飛んだな。」

「いいじゃない、塩なんて。私がいくらでも買ってあげるから。」

「どういう事だ?」

「それより、ぼけっと突っ立ってないで、レディをエスコートしてよ。」

「分かりました、お姫様。」

アンナの手をとり、家具の間をすり抜けながら見事に踊るエミリオ。

「行商人がね、こんな事を言っていたの。

都では革命軍の汚職に嫌気がさした民が、皇帝の復活を望んでいるんですって。

そして皇帝の血を引く唯一の人物、プリンセスメロディを探してるんですってよ!」

「何だって?」

「だから、お姫様を探してるのよ!」

「アンナ、お前、もしかして記憶が…」

「やっと貧乏暮らしから解放される時が来たのね!」

「え?なに?」

「私、きれいでしょ?お姫様に見えると思うの。」

「見えると思うって…」

「私、プリンセスメロディになるわ。 だってまたとないチャンスじゃない!」

「そんな、危険だ!止すんだよ!」

「こうでもしなきゃ一生、森から出られない。

もっときれいな服を着て、美味しいものを食べたいのよ。」

「それがお前の望みなのか?」

「そうよ。これが私の望んでいる事なの。

美しいドレス、大理石の床、銀食器の音、甘いお菓子、なんだかどれも懐かしいの。」

「…分かった。お前の思う通りにしよう。」

「本当に?ありがとうエミリオ!大丈夫、私うまくやるわ。

皆を騙してみせる。これは私たち二人のためよ!」

こうしてエミリオとアンナは慣れ親しんだ森を出て都へ向かった。

都には国中から玉の輿を狙う女達が集まり、

我こそはメロディ姫であると名乗りをあげ、ありとあらゆる証拠をでっちあげていた。

民の代表でこの戦いの指揮官ヘンリーは 皇帝一家と面識のあった医者や学者を集め、

メロディ姫の特徴全てが一致する者を探したが見つからなかった。

その様子を見ていたアンナが言った。

「あんなイモ娘がメロディ姫なわけがないわ。

でも、この検査は手強いわね。 どうすれば私が本物だと信じるかしら?」

「俺の言う事を全て暗記するんだ。」

「え?どうして?」

「いいから。メロディ姫になりたいんだろ? それなら言う通りに。」

「分かったわ。」

「それともう一つ。」

そう言ってエミリオは、丸いオパールの首飾りをアンナに渡した。

「なに?これ、どうしたの?」

「ずっと昔に俺がお前に贈ったものだよ。お前は覚えてないかもしれないが…」

「そうだったの? ごめんなさい、全て忘れてしまったわ…でもとてもきれいね!

明日は、この首飾りをつけた私の美しさに、皆息をのむはずよ。」

「あぁ、きっとそうなる。」

そしてアンナはエミリオの言うメロディ姫の生い立ち、両親の事、幼いころの習い事や

好きな食べ物まで、 ありとあらゆる事を教えられ、一晩かけて暗記した。

翌日、指揮官ヘンリーや学者達に会う時がやって来た。

「ここから先はアンナ一人で行かねばならない。」

「大丈夫よ、エミリオ。見事に騙してみせるわ。」

そう言ってアンナはヘンリーの待つ部屋に入って行った。

アンナが入って来た途端、部屋はにわかに騒がしくなった。

アンナの美しさ、気高い気品はそこらの娘とは明らかに違うものだったのだ。

「彼女だ!」

「面影がある!」

「彼女に違いない!!」

そんな声がアンナの耳にも聞こえてきた。

指揮官ヘンリーはそれでも冷静に、あらゆる質問をアンナにぶつけた。

全ての質問にアンナは、エミリオが言った通りに答えた。

部屋のざわめきはいよいよ大きくなっていた。

すると一人の学者が席を立ちこう言った。

「私はメロディ姫の家庭教師をしていました。

ある日私は彼女に聞いたのです。 あなたの一番大切なものはなんですかと。

そこであなたにも伺います。

あなたの一番大切なものはなんですか?」

アンナは、一瞬戸惑った。

そんな事はエミリオにも教わっていなかったのだ。

アンナは極力平静を装い、頭に思い浮かんだ事を答えた。

「それはこの首飾りですわ。これは私の一番大切な人に貰ったものなのです。」

学者はアンナの胸に光るオパールを見つめこう言った。

「彼女こそ本物だ! メロディ姫も同じ事を言われたのだから!」

その瞬間、部屋は歓声につつまれた。

外で待っていたエミリオの元にアンナがやって来た。

「歓声が聞こえたよ! やったなアンナ、おめでとう!」

「これはどういう事?」

「なにが?」

「とぼけないで。あなたは誰?私たちは一体何なの?」

「お前はプリンセスメロディだ。それでいいじゃないか。」

「良くないわ!だって私はメロディなんかじゃないもの!

どうしてあなたは全てを知っているの?この首飾りは何なのよ?」

  混乱して取り乱すアンナをエミリオは抱きしめた。

「答えて。あなたは誰なの?」

「...俺は、いや、私は、あなたを、メロディ姫を守る騎士でした。

そして愛してはいけない あなたを愛してしまったのです。」

「そんな…」

「実るはずのない恋でした。 でもあなたは私の愛に応えてくれた。

私は永遠の愛をこめて, この首飾りをあなたに贈ったのです。」

「うそ、うそよ!そんなの信じない!」

エミリオはアンナの首飾りをとると、 持っていた短剣でオパールをたたき壊した。

「なにするの!」

「見て下さい。」

そう言ってエミリオは首飾りをアンナに渡した。

欠けたオパールの下には “Princess Melody” という刻印が刻まれていた。

アンナは言葉を失い、ただただ呆然とするしかなかった。

  「あの革命前夜は悲劇でした。 あなたは自分が誰かも、私への愛も忘れてしまった。

それでも、あの夜がなければ、愛するあなたとこうして暮らす事は出来なかったでしょう。

私には幸せすぎる日々でした。」

そこへ指揮官ヘンリーがメロディを迎えにやって来た。

「さぁ、行って!あなたが戻るべき所へ!そしてあなたの望みを叶えるのです!」

そう言うとエミリオはメロディの前から走り去って行った。

「エミリオ!待って!行かないで!」

しかし人々に阻まれ二人は離ればなれになってしまった。

宮廷ではメロディ姫の帰郷を祝って、豪華絢爛なパーティーが開かれた。

メロディは宮廷のあちこちに記憶の断片を見つけた。

エミリオと密かに逢っていた通路や、共に本を読んだ広間。

愛を告げた庭や、あの首飾りをくれた部屋。

自分がプリンセスメロディである事、どんなにエミリオを愛していたかを思い出したメロディは、

欠けたオパールの首飾りを抱きしめて泣いた。

憧れていた美しいドレスも、大理石の床も、銀食器の音も、甘いお菓子でさえ味気なかった。

何があってもそばにいて、変わらぬ愛を注いでくれていたエミリオ、

人生で一番大切なものはメロディのすぐそばにあったのだ。

気がつくと,メロディは着ていたドレスを川に投げ込み、ぼろ布を纏って城から逃げ出していた。

川から見つかったドレスによって、メロディが投身したのではないかと宮廷は大混乱に陥った。

 

都から離れた森の奥、

薪拾いから戻ったエミリオをぼろ布を纏ったメロディが出迎えた。

  「エミリオ!」

  メロディの姿を見たエミリオは驚いた。

「なんという事を…」

メロディーはエミリオの胸に飛び込んだ。

「私の戻る場所はここなのよ。あなたのいる場所なの。」

「なんという姫だ。私の心を虜に出来るのはあなたしかいない。私のたった一人のプリンセス。」

 

全てを捨てて戻ってきたメロディを エミリオは二度と離さなかった。

消えたプリンセスは永遠に見つからず、二人はこの森で末永く幸せに暮らした。

 

 

                                                   おわり

 

 

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