"永遠の愛の国"

この国にはある掟があった。

〝愛を誓い合った二人は、決して別れてはいけない”

先代の王が若気の過ちで失った愛をなげき、死の間際に定めたものだった。

それからこの国は「永遠の愛の国」と呼ばれるようになった。

 

今日もハルは国境である者を待っていた。

森の中にそれらしき人々が現れると、ハルは大声をあげ、手を振って合図した。

「ここだー!ここが国境だぞー!」

ハルを見つけたマルセルはリリアンに言った。

「見えた!愛の国だ!がんばれリリアン、もう少しだぞ」

「えぇ、急がなくちゃ」

「待てー!許さんぞ!」

手をとりあい逃げるマルセルとリリアンの後を、彼らの親族たちが追いかけて来た。

「お二人さーん!早く早く!」

ハルは国境を示す赤い布が巻かれた木の元へ、マルセルとリリアンを導いた。

「さ、さ、ここが国境だ。早く愛を誓い合うんだよ」

二人は乱れた息を整える間もなく、向かい合った。

マルセルはポケットから結婚指輪をとり出した。

それはとても美しく、青い夜空にダイヤの一番星が光り、白い丘に金色の花が咲いていた。

「リリアン、俺は」

「おっと、その前に!」

マルセルの愛の誓いを遮ってハルが言った。

「掟では、必ず一人、立会人がいなくちゃいけない事になってる」

「なに?」

「だから立会人だよ」

そう言ってハルは手の平を開いて見せた。

「まったく!」

そう言ってマルセルは硬貨をハルの手に投げた。

「待つんだリリアーン!」

リリアンがはっと顔を上げると、親族はすぐそこまで迫っていた。

「ほらほらお二人さん、急がないとあいつらが来てしまうよ!」

マルセルは指輪を持ち直し、リリアンの手をとって言った。

「永遠に変わらない愛を君に誓う」

リリアンの細い指に指輪がはめられた。

「私も誓うわ!」

二人は抱き合ってキスを交わした。

ハルは拍手しながら、追って来た親族達に言った。

「あきらめな!この国では、愛を誓い合った二人は別れられないんだから」

親族達は地団駄を踏んで悔しがったが、もう遅かった。

こうしてマルセルとリリアンの駆け落ちは、見事成功したのである。

「森を抜けると村がある。新しい暮らしはそこで始めるといい」

ハルはマルセルとリリアンにそう言った。

「待って、私達の立会人、お名前は?」

「どうしてそんな事を聞くんだい?」

「二人の愛の証人だもの。名前くらい知りたいのよ」

「リリアン、こいつは愛の証人なんかじゃない。俺達みたいな恋人を見つけて金を稼いでいるだけだよ」

「分かっているわ。それでも」

「俺はハルってんだ。あんた達もやがて分かるさ。ここは夢の国じゃないって事が」

「どういう事?」

「もういい、さぁ、行こう」

マルセルにただされて、リリアンは歩き出した。

村に着いたマルセルとリリアンが事情を話すと、人々は快く受け入れてくれた。

二人と同じように隣国から駆け落ちしてきた人も多く、皆が助け合って生きていた。

二人は村はずれの空き家を新居に使う事を許され、マルセルは農地の開墾を手伝う事になった。

昼間、マルセルが家を留守にしている間、リリアンは慣れない畑仕事や家事をこなした。

リリアンは裕福な商人の娘だったので仕事とは無縁、全てが初めての経験だった。

ある時、リリアンが作った紫色のスープを見て、マルセルは尋ねた。

「このスープ、何が入っているんだい?」

「何って、普通のものよ」

「そうか、それならいいんだ」

と言ってスープを飲んだマルセルはその日のうちに体調を崩し、三日間寝込んでしまった。

この紫色のスープは「魔女のスープ」と呼ばれ、皆の笑いを誘った。

だが、リリアンの失敗はそれだけではなかった。

火の始末を忘れてボヤ騒ぎを起こしたり、収穫した野菜の保存法を間違えて腐らせたりもした。

リリアンの美しかった指は泥で汚れ、髪は艶を失っていった。

それを見たマルセルは植物の油をリリアンの荒れた手に塗ってやった。

すると、結婚指輪が泥で汚れている事に気が付いた。

「指輪が汚れてる…」

「どうしても土がついてしまうの」

「貸してごらん。明日町の宝石屋へ行って磨いてもらおう」

マルセルはリリアンの指から結婚指輪を抜き取った。

「私、何をやっても失敗ばかり」

「そんな事はいいんだよ」

「前みたいに綺麗じゃないし」

「十分すぎるくらい綺麗だ」

涙を流すリリアンをマルセルは抱きしめた。

「今日はもう遅い、眠ろう」

二人は一緒にベッドに入り、お互いの体を温め合いながら眠りについた。

翌朝、村ではある事件が起きた。

マルセルとリリアンと同じく、駆け落ちしてこの国にやって来たお隣さんが、

忽然といなくなってしまったのだ。

「どこへ行ったのかしら?」

「最近、喧嘩ばかりしていたからな」

「まさか、国へ帰ったの?」

「そうかもしれない…」

驚いている二人に村の人々は、こんな事は珍しくないと言った。

「この国の掟を守り抜くのは容易くない。

愛する人の良い所も悪いところも、全てを受け入れて共に生きるのは、何よりも難しい事なんだ」

マルセルはリリアンに尋ねた。

「君も国へ帰りたいって思ってないか?」

リリアンは驚いて言った。

「そんな事思ってないわ」

「でも、昨日泣いていたじゃないか」

「あれは」

「君は俺とこの国に来なければ、こんな苦労しなくて済んだって思っているんだろ?」

「私を信じてないの?マルセル?」

「信じたいさ、でも…」

リリアンはマルセルの言葉に深く傷ついた。

慣れない畑仕事や家事が辛くても、マルセルと一緒にいられるなら構わなかったのに―。

リリアンはマルセルの前から走り去った。

「リリアン!」

追いかけようとしたマルセルを村人たちが止めた。

「君がとるべき道を考えるんだ」

マルセルは途方に暮れた。

何がリリアンにとって最も幸せな事なのか。そして自分はどうしたいのか。

マルセルはリリアンから預かった結婚指輪を見つめて答えを探していた。

 

気がつくとリリアンは森の外れまで来てしまっていた。

そこにはマルセルとリリアンが愛を誓った国境を示す木が変わらずに立っていた。

「おや、どこかで見た顔だな?」

そう言って、ハルがリリアンの傍へ歩いてきた。

「ハル!私達の立会人!」

「あぁ、あの時の。連れは何処だい?」

リリアンは悲しそうに首を振ってみせた。

「そうかい。そりゃあ可哀想に。で、あんた国へ帰るのかい?」

「分からないわ」

リリアンは故郷の方向を眺めた。

「ハル、今日は何組の恋人達がここで愛を誓い合ったの?」

「三組さ」

「愛の国を出て行ったのは?」

「何人もいたさ」

「そうなの…」

「この国の掟は恋人達を容赦なく試しているんだ。

どんな時も、どんな事があっても、相手を愛せるのかってね。

それが出来ないならこの国を去るしかないのさ」

「試す…」

「あんたはあいつをまだ愛しているのかい?」

「もちろんよ!私、マルセル以外は考えられないわ」

「ならなんで迷うんだい?」

「そうよね。迷う必要なんてないわ。答えはいつだって分かっているもの」

ちょうどその時、森の中からマルセルが現れた。

「リリアン!」

「マルセル!」

マルセルはリリアンの元へ駆け寄ると、磨かれた結婚指輪をとり出した。

「すまない、リリアン。弱気な事を言って。俺は君を、君との愛を信じてる」

「私もよ、マルセル。国になんて帰りたくないわ。ここでずっとあなたと暮らしたい」

「なんてこったい、お二人さん。ここで二度も愛を誓い合う気かい?」

「悪いか?立会人」

「今までこんなことする人はいなかった。あんた達が初めてさ」

「今回も立ち会ってくれるんだろ?」

「やれやれ、まったく」

「ありがとうハル。またあなたが立ち会ってくれて嬉しいわ」

マルセルはリリアンと向かい合った。

「この指輪、少し細工をしたんだ」

「え?」

「俺の気持ちを伝えたくてね」

マルセルは指輪の装飾部分をくるりと回転させた。

するとそこには表と同じように、青い夜空にダイヤの一番星が光り、

白い丘に金色の花が咲いていたのだ。

驚いているリリアンにマルセルは言った。

「どんなに時が流れても、例え大地がひっくり返っても、俺は君を愛してる」

「マルセル…」

「永遠に変わらない愛を、もう一度君に誓うよ」

リリアンの細い指に指輪がはめられた。

きらきらと輝く指輪は、二人を祝福している様だった。

「私も、あなたに愛を誓うわ!」

リリアンとマルセルは、抱き合ってキスを交わした。

「あんた達こそ、この国に相応しい。いいもの見せてもらった礼に立会料金はとらないよ。」

ハルは溢れる涙を堪えながらそう言った。

「やっぱり、ハルは良い人だったのね」

「そうみたいだな」

三人の笑い声が森に響いた。

 

こうしてマルセルとリリアンは、永遠の愛の国で末永く幸せに暮らした。

 

 

                                                     おわり

 

 

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