"幸運のコイン"

幼いミラにはアンジェラという親友がいた。

二人は貴族の娘で家が近く年も同じだったため、いつも一緒に遊んでいた。

大人しく控え目なミラに対し、アンジェラは活発で頭が良いと評判の娘だった。

ある日ミラとアンジェラは親の言いつけを破って、屋敷の外で遊ぶ事にした。

初めは屋敷の周り、そのうち市場、最後は海岸まで来てしまっていた。

海には見たこともない貝やカニ、魚やクラゲがいて、二人は時間の経つのも忘れて遊んだ。

ふと、アンジェラは砂の中に輝くなにかを見つけた。

手にとって見てみると、それは異国の硬貨の様だった。

表面に目隠しをした人物が刻印された銀色のコイン。

アンジェラはすぐにミラを呼んだ。

「見て!このコイン!」

「わぁ、きれい!」

「どこの国のコインかな?」

「分からない。でもきっと海の向こうから流れてきたのよ。」

「それなら自分の国に帰してあげなくちゃね!」

そう言ってコインを海に投げようとしたアンジェラを、ミラが慌ててとめた。

「待って!本で読んだの。拾ったコインには願いを叶える力があるそうなの。

アンジェラの願いも叶うかもしれないよ?」

「私の願い?」

「いつも言っているじゃない。」

そう言ってミラは夕焼けの空に光る宵の明星を指差した。

「本にはね、こうも書いてあったの。

願いを叶えてくれたコインを友達にあげると、幸せが繋がっていくって。」

「へぇ、すごい!」

「だからアンジェラ、願いを叶えてね。」

 

夕日に照らされた砂浜で、ミラとアンジェラがそんな話をしてから何年も時は過ぎた…

二人は年頃の娘になったが、相変わらず仲が良く、いつも一緒だった。

その夜も二人はお泊まり会をしていて、アンジェラの部屋にミラが来ていた。

おのずと話はミラの恋愛話になった。

ミラが想いを寄せるのは庭師のジャンだ。

彼の作り出す繊細な庭で散歩をするのが、ミラの何よりの楽しみだった。

だが、恋してはいけない相手と分かっていたミラとジャンは、

お互いの気持ちを打ち明けられずにいた。

「それでいいの?」

とアンジェラはミラに強く言った。

「いいもなにも…」

「おじさまはあなたを商人に嫁がせるつもりよ。」

「分かっているわ。貴族と言っても、我が家はもう名ばかりだもの。」

「だったら、そんな身分は捨てて自由になればいいじゃない。」

「お父様やお母様に働けって言うの?」

「自分で自分の面倒をみるのが、これからの時代よ。」

「だからって貴族はなくならない。」

「なくなるわ、いつの日か。その時後悔しても遅いの。

お父様やお母様の為にお嫁にいった事を。」

「アンジェラみたいに強い人間ばかりじゃないわ。」

「弱くたって自分の未来は自分で選べるはずよ。」

「…ねえ、アンジェラ。本当に、家を出るつもりなの?」

「ええ。」

「何処へ行くのよ?」

「前に話した博士のところ。」

「え、じゃあ、まさか!」

「博士が私の書いた手紙を読んで、ぜひ一緒に研究しようって言ってくれたの!」

「すごい、すごいわ!アンジェラ!」

「あんな有名な先生のもとで星の観察が出来るなんて!」

ミラとアンジェラは抱き合って喜んだ。

そのあまりの喜びように、メイド達が何事かと駆けよって来たほどだった。

「しー、静かに!落ち着いてミラ。家を出るのが分かってしまうでしょ?」

「ごめん、ごめん。」

「まだまだこれから。とにかく私はあの輝く星達の正体を知りたいのよ。」

「アンジェラの夢は必ず叶う。私が一番そう信じているわ!」

「私以上に、私の事を信じてくれるのはミラだけ。

私が強くいられるのはあなたがそう言ってくれるからよ。」

アンジェラはミラの額に自分の額を重ねた。

「だからミラには幸せになって欲しいの。

すぐ傍であなたの悩みを聞いてあげられなくなるのだからね。」

「そうね。とっても寂しくなるわ…」

「ねぇミラ、ジャンのどんなところが好きなの?」

「えーと、それはね…」

控え目なミラは人前で歌うことも、朗読する事も苦痛で上手く出来た事がなかった。

それでも貴族の家に生れた以上、人並みの教養は身につけなくてはならない。

家庭教師が帰った後、ミラは嫌な気持ちを紛らわす為、庭を歩いた。

すると、どうだろう。

庭にはいつの間にかミラの大好きな花が咲いていたのだ。

美しい花はミラの心を励まし、不器用な自分を許せるようになっていった。

しかし、なぜこんなにも自分の好きな花ばかりが庭に咲くようになったのか?

以前はもっと渋い、父親の趣味を取り入れた庭だったはずだ。

不思議に思ったミラはメイドに尋ねた。

するとメイドは

「お抱え庭師が亡くなり、その息子ジャンが新しく庭を造っている。」

と教えてくれた。

「ジャンはどうして私の好きな花を知っているの?」

とミラがメイドに尋ねると、メイドは言いづらそうにこう言った。

「庭師がお嬢様の元気のない様子を見て、少しでも慰めたいと申しまして。

わたくしが教えたのでございます。」

ミラはジャンの顔を知っていた。何度も庭ですれ違った事がある。

言葉を交わしたのはほんの僅かだが、逞しい青年だった。

彼は私をいつも見てくれていた―。

その時からミラにとって、ジャンもジャンの造る庭も特別なものになったのだ。

「何て言うのかしら、勘のようなもの?私の相手は彼しかいないって、感じるの。」

「ふぅん。」

「アンジェラ、私おかしいかな?」

「ちっともおかしくない。私なんていつもその勘を信じているわ。

星を好きになった時もそうだった。私のやるべき事はこれだ!そう思ったの。」

「いいなぁ、アンジェラはいつも自分に自信があって。」

「そんなものないわよ。でも、不安になったり、迷ったりした時は目を閉じてみるの。

そして私はどうしたいの?そう自分に問いかけると、本当の気持ちが分かってくるのよ。」

「本当の気持ち?」

「そう。親だとか、家だとか、世間とか。

色んな事があるけど、それを全部とっぱらって、私はどう生きていきたいのか考えるの。」

「そんなの分からないよ。」

「いいから、ほら目を閉じてみて。」

ミラはアンジェラに言われるままに、瞳を閉じて横たわった。

暗くて静かな空間は何もなく、ミラは不安でアンジェラの手を握り締めた。

「大丈夫、自分の気持ちと向き合うのは怖いものよ。」

「うん…」

―もし、心の声がジャンを選べと言ったら?

貴族として優雅な暮らしを続けるには、商人と結婚するしかない。

だがミラには、商人に養われながら、ジャンの造る庭を歩く自分を想像する事は出来なかった。

代わりに浮かんできたのは小さな庭、小さいけれどきちんと手入れされ、ミラの好きな花が咲く庭だ。

そこには年老いたジャンがいた。

彼の横には年老いたミラがいて、二人は一緒に庭を歩いて笑っていた。―

 

ミラはアンジェラの呼ぶ声で目覚めた。

「ミラ、朝よ。私は行くわ。きっと皆驚くでしょうけど、これはもう決めた事なの。」

「アンジェラ、元気で。おじさまとおばさまには私から伝えるわ。大丈夫、あなたなら出来る。」

「えぇ、ありがとう。でも私よりあなたが心配…ねぇ、これ、覚えている?」

そう言ってアンジェラはポケットからコインのついた指輪をとりだした。

「なぁに?これ?」

「指輪にしてみたの。昔、海で拾った願い事が叶うコインよ。」

「あぁ!あの時の!」

「私の願い事は叶ったわ。だからこれはあなたに。」

アンジェラはミラの指にコインの指輪をはめた。

「リングの片方はわざと外してあるの」

「どうして?」

「もう、忘れちゃったの?自分の願いが叶ったら、友達にこのコインをあげるのよ。

そうすると幸せがずっと繋がっていく。」

「そうだったね。」

「ね、いい?迷ったり悩んだりしたらこの指輪を思い出して。きっと幸せになれるから。」

ミラは去ってゆくアンジェラをいつまでも見送った。

 

ある日の夕方、ミラが庭を歩いていると、偶然ジャンと出くわした。

ジャンは

「ご結婚おめでとうございます。」

とミラに向かって言った。

「そんな、まだ決まったわけじゃ…」

「でも、皆が噂しています。街一番の商人がお嬢様のお相手だって…

お幸せに。お嬢様の幸せを心から願っています。」

ジャンは震える声でそう言うと、草木の手入れに戻っていった。

ミラは何も言えずに立ち尽くしていた。

「迷ったり、悩んだりしたらこの指輪を思い出して―。」

ミラの心にアンジェラの声が響いた。

コインに刻印された目隠しの人物を見て、瞳を閉じてみる。

「後悔しないように生きるのよ。」

ミラは自分の心の声を聴いた気がした。

瞳を開けて「ありがとう」とつぶやくと、ミラはジャンの元へ走り出した。

 

 

                                                   おわり

 

 

 

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